グループホームでの老人社会の人間模様
・しばらくつまらない雑用などありまして、A婆さんの様子を見に行っていなかったのです。
そういえば、婆さんはどうしているのか……
前回様子を見に行ったときは早くもグループリーダー的存在になり、
その権勢をいかんなく発揮しておりました。
といいますか、婆さんばかりで痴呆の進んでいる方々が多くいらっしゃいますから、
ほとんど相手にされていないともいえますがね。
要は自分が言いたいことを言い、やりたいことができれば、それでストレスもかからず、
足りない部分はスタッフの方々がサポートしてくれる。
食事の心配もいらない!
つまり、考えようによっては天国のような場所なのですが……
その後どうなってますやら
・A婆さんは果たして生きておりました。
すこぶる元気な顔をしていますが、少しその奥に闘争心も感じられましてね。
これは何かあるなと……
話をしていますと、どうやら最近爺さんが一人入所されたようでして、
つまりその……その爺さんの争奪戦がくり広げられているようなのです。
で、私が持って行った手土産を、スタッフに渡そうとしましたがA婆がむしり取り、
その爺さんに手渡すのです。
中身はクッキーの詰め合わせなのですが、
半分くらいはその爺さんに、そして配下の婆さんたちとスタッフに一個ずつ。
あれまあ!
しかし、全くもらっていない婆さんが一人いてね。
あの方にもあげたらと私が言うと、あんなやつにあげる必要はないと!
なぜかその婆さんと火花を散らしている。
つまり、あれですよ、恋のライバル
笑っちゃいますよねえ、あんた歳はいくつ?
不思議なのは、もはや女性ホルモンが枯渇するくらいの年齢でありながら、
異性に対する燃え上がる心はいっこうに衰えない。
これって、不思議なのですが……
考えてみれば、私もかなりシニアにどっぷり使ってはいますが、
枯れてもいい歳ではありますが、
若いミニスカートの女性が歩いていると無性にドキドキしてしまう。
それと何が違うのか、いや同じでしょう。
・確かにそのような男女間の心の機微は、本能に根ざしたものなのでしょう。
そして、昔から数多くの恋愛もののドラマや映画も作られてきたのも事実です。
が、例外なくそれは若い男女でしてね。
高齢者の恋愛もののドラマって私は記憶にありません。
でも、考えようによっては高齢社会でありますから、目の前の現実を見たときに、
その辺のニーズはあるのではないかと……
しかし、老人同士が杖をつきながら抱き合っている姿や、キスしながら入れ歯が鳴っている光景は、
絶対に視聴率は取れないだろうなと!
余計な妄想の世界に飛んでしまいました。
そして、グループホームの老人社会もまた心理的に虚々実々の駆け引きが連日繰り広げられているのだと実感しました。
これじゃあ、どこへ行っても安心して死ねないなあ……