行方不明中の元同僚が戻る
・気付かないうちに月日は過ぎるものです。
たとえば、元同僚のS山さんがある日忽然と姿を消して、一度連絡があったものの行方知れず。
あれからずいぶん時間が経過し、最初は騒いでいた元同僚たちも元上司のWジジイも、
そして元家族もS山さんのいない生活が普通になりましてね。
誰も違和感なく日々過ごしているのです。
つまり……、端的に言いますと忘れられてしまった!
しかし、世の中うまくできております。
当たり前の状況になれば、ちょっとしたことで波風はすぐに立つものです。
・私はその日もバイトがやっと終了し、肩の荷を降ろし帰途についておりました。
このところバイト先のパン屋の経営状態が怪しいのではないかと、勘ぐっているのです。
うわさ話や店主夫妻のなんとなく暗い会話、それに冷静に考えて以前に比べ客足もぱっとしない。
しかし、考えても私も妻も経営者ではないのです。
ただ、いずれ店を任されようとしているわけでね、やはりその辺は知りたいのですがね。
でもまあ、バイトで働けているうちは月々お金が入ってきます。
そんな感じで、帰り道……
薄暗い夜道で前方に不審な影が突っ立っているのです。
人通りは途絶え……
このところ物騒なニュースが多いですから、身構えながら通り過ぎようとしたときです。
すると、やおら私の方に振り向いて、「やあ!」
ビックリするよね、「誰?」
そこにはS山氏が立っていたのです。